日比谷の街角 弁護士 稲垣隆一 稲垣隆一法律事務所

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2012年07月

セキュリティ対策 人の問題 IPA「リスク認知と実行に関する調査」

情報漏えい事故は減らない。

技術とマネジメントや統制の枠組みは様々に取り組まれているのだけれど。
「人の問題」への取り組みはなかなか進まない。
そこで,「結局人の問題だね」で思考停止しがち。

そうなのだ,システムの課題を考えるときも,運用を適切に行う為の課題と対策は,企画や開発のそれより難しいと感じる。

IPAの「リスク認知と実行に関する調査」は,この問題に,社会心理学の知見からアプローチしているもので,素晴らしい。

こうした研究が進んでこそ,技術や枠組みの研究が現実を変える力を一層強く備えられることができるのだろうと思います。

報告書は
http://www.ipa.go.jp/security/economics/report/behavior/index.html


報告書末尾の「今後の課題」では,調査と実験との整合性をとるための実験手法など,研究の方法論の充実が必要だと指摘しておられるけれど,ぜひ,こうした研究を継続していただきたいと思います。
そして実践的な研究成果を,ISOの枠組みづくり,NISCでのセキュリティ政策づくりに生かしていただけたらと思います。

遺留分訴訟と法曹の良心

遺留分請求訴訟は難しい。
特に不動産だけが遺産であるときには。

なにが難しいかというと,進行だ。

こうした事件は,和解ができなければ,認められる遺留分の限度で,不動産に共有登記をする判決を書けばそれで一件落着。簡単だ。

しかし,それでは,問題は解決しないことが目に見えている。
共有登記をすれば,争った当事者が,永遠にその不動産を共有することになり,権利関係を整理しようとすれば,共有物分割訴訟に進み,競売して,他方の共有者が安値で買い取りをすることになる。

これでは,遺留分請求訴訟を起こした原告の利益は,実質的には守れない。
また,被告も,長い間,共有の負担を追い続けることになる。
特に,遺留分事件の当事者は,親族だから,裁判までして争う以上,その感情的な対立は激しい。

裁判官は考える。判決で一件落着では問題は解決しない。感情的対立を残すことになる。
当事者の弁護士も,同じことを考える。
そこで,和解により当事者の関係を整理すべきだ,そのために努力しようというのが,良心的な裁判官,法曹の考えだ。

こういう良心的な法曹もいるのだ。


一回結審

賃貸している建物の明け渡し請求訴訟の第1回。
こちらは原告である家主の代理人弁護士。相手は被告のテナントの代理人弁護士。
たった一回の期日で結審。判決期日が決まった。こちらの勝利だ。

「賃料を払わないので出ていってくれ」と言うのがこちらの主張。
しかし相手は,「使ってはいるが,賃料を払う理由はない」というのだ。
その根拠はこうだ。
家主が,更新後は,風営法を守ってくれとか,変な人に貸さないと合意してくれという。こんなことを合意すれば店はやっていけないから,そんな合意はしない。でも,こういう合意を求められては営業できない。だから,賃料を払う必要はない。というのだ。

これにはビックリ。相手方は答弁書でこんな主張をしていたので,私は,答弁書が出てすぐに,「被告は,原告が求める合意をしたら建物を利用できないと言いながら,合意はしていないことを認めているのだから,何ら,賃料不払いを正当化する理由はない。当方の主張を認めて自白しているのだから,すぐに結審してほしい」と粘った。

裁判所も驚いたらしい。

裁判官「占有しているんですか」
相手方弁護士「はい」
裁判官「じゃどうして賃料支払わないんですか」
相手方弁護士「家主が変な合意を求めるので」
私「でも,家主の求める合意には応じていないんでしょう」
相手方弁護士「はい」
裁判官「賃料を支払わないでもよい理由はないことはわかっていますね」
相手方弁護士「ええ。」
私「被告は請求原因を認める主張をしていうのだから,すぐに結審してください」

裁判官が見かねて救い船を出した「被告本人の言い分をそのまま答弁したんですね」
相手方弁護士「はい」

たしかに,弁護士は,市井の人の言い分を裁判所に上げるのが仕事だ。
弁護士がそれを怠っていたら,正義は守れない。新しい人権も生まれなかった。
今は当然の,日照権も,環境権も,そう,労働三権も,敗訴を続ける戦いの中から生まれてきた。

でも,それと,無謀な主張をすることは違う。

家主の求める合意をしたら営業できない。だから合意しない。でも使えないから,賃料を支払わなくていいのだという主張は,それ自体矛盾していて,失当だ。

こういう依頼者には,「あなたの言い分は通らない」と教えるのも弁護士の仕事だ。
それを,費用をとって裁判で争うというのは,依頼者に対する背信だ。

相手方弁護士がつぶやいた「和解で解決できませんか」
理由もないのに,争って,和解に持ち込もうなどという魂胆には,私は絶対応じない。
時間稼ぎや,和解をするために,裁判所を使おうなどということが許されたら,裁判所を使って家主の権利を制限することになる。

こんなことを弁護士がしていたら,弁護士の信用は地に堕ちる。

相手方弁護士が,こちらの主張に反論したいと主張したが,裁判所は,一蹴して,結審した。











情報漏洩の疑いを解く コンプライアンス経営の肝 ISMSの文書化の意味

ある会社から,「自社から情報漏えいしたと疑いをかけられている。自社からの漏洩の有無を調べて欲しい」と求められて調査している。

なぜ弁護士が必要なのか。
それはこうだ。

仮に漏洩があったとすれば,法的責任を問われる可能性がある。また,漏洩した社員の懲戒問題に発展する。
漏洩がなかったとすれば,疑いを掛けた相手にそれなりの対抗をしなければならない。
いずれにせよ,法的責任がかかっている。
そこで,調査の設計と実施には,法的な争いに絶えられる証拠の粒度を知る弁護士が必要となるというわけだ。

今回の調査設計は,その情報の入手以降,情報漏えいの可能性のあるルートをしらみつぶしに洗い出して,その一つひとつを点検して,そのルートからの漏洩の事実,リスクを点検・評価するというものだ。

当然弁護士一人でできるわけもない。
管理,システム,調達,資産管理の各部門から人を出してもらって調査チームを構築して調査方法を設計し,役割分担して調査を実施する。

作業の中核は,証拠の収集だ。

つくづく,コンプライアンス経営は,証拠にもとづく経営だと痛感する。
コンプライアンス経営が問われるのは,コンプライアンス経営が争われたときだ。
争いに対抗するには,証拠が勝負だ。
だからコンプライアンス経営の肝は証拠の確保なのだ。

ISMSの文書化と記録が,情報管理のコンプライアンス経営に役立つ理由はここにある。











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