「あなたに合った電気を選べる時代へ。」

これは,委員会のある若手の女性が苦労して練り上げた電力改革の標語だ。

この意味は深い。つくづく,よく出来た標語だと思う。

小売市場の自由化の要となるのは,電気を買う側が「選択できる」ことだ。

しかし,購入者は,何を選べるのか。選択できるのか?

どの小売事業者を選んでも,コンセントから出てくる電気の質は変わらない。

送電網にながされた電気のうちから,ある発電所で発電された電気だけの配電をうけることは,少なくとも,今の時点では不可能だからだ。送電網にながされた電気は,原発で発電されようが,太陽光で発電されようが,その性質に差はないから,選んで配電をうけることは,少なくとも今の技術では不可能だからだ。

ということは,購入者は,コンセントから出てくる電気を選ぶことはできない。

でじは,何を選べるのか。

それは,電気の価値なのだ。

電気の価値は,「小売事業者」によってもたらされる。

そこで,小売業者のあり方そのものが,購入側にとっての電気の価値になる。

今,最も顕著なのは,安い価格で電気を売る小売事業者を選ぶ,ポイントや抱き合わせ販売されるサービス,いわばオマケの中身により小売事業者を選ぶ。という選択だ。

しかし,仔細jに小売市場を見ると,様々な小売事業者が出てきている。また,購入側も様々な価値を見出す人々もいることに気づく。

例えば,故郷で発電された電気を仕入れる会社を選ぶ人がいる。この人は,故郷の発電事業者を応援することに価値を見出している。再生可能エネルギーを仕入れて売る会社を選ぶ人は,再生可能エネルギーの発電事業者を応援することに価値を見出している。ある人は,販売先の地域に近くに位置する発電事業者から仕入れた電気を売る小売事業者を選ぶ。この人は,いわゆる地産地消に価値を見出している。また,ある人は,地元の自治体が出資した小売業者を選ぶ。ある人は,小売業者の経営のあり方に価値を見出してその会社から電気を購入する。

そうなのだ,選択とは,電気の使用者が,電源の配置,種別,小売事業者の提供するサービス,小売業者の属性や経営のあり方を選ぶということなのだ。

こうした選択ができるようになることには,格段の意味がある。それは,購入する人が,発電,電源,事業者の有り方を統制できるようになったということだ。今までは,そんなことはできなかった。いわば,そこに住まう以上,決まった一般電気事業者からしか購入できなかった。このような環境のもとでは,電気事業者の関心は,電気の使用者の希望より,自社を規制する行政当局,自社に有利な政策を形成する立法者に向けられるのが当然であった。

法律家が見る今回の改革の価値は,ここにある。自由な競争は,法的に見れば,自由な意思決定であり,自由な意思決定を支える動機形成の自由により実現される。この自由は,まずは小売事業者の側の多様な有り様によって保証される。

電気の作り手,送り手,届け手が,電気の取引を通じて,電気の使い手と,ともに電力制度が持ち得る価値を見つめ,作り上げる。そこには多様性が産まれ,より一層豊かな価値が産まれ,社会はより豊かになる。

スマートメータが実現する双方向通信と電力使用情報の自由な流通とその利用がその基盤をなす。
様々なシステム,アプリケーション,家電機器,サービスが,使用者にとっての小売事業者の価値を豊かにする。

電力改革の目的は3つが掲げられている。電気の価格を下げることはその一つに過ぎない。

「あなたに合った電気を選べる時代へ」という委員会のポスターに掲げられた標語を見ながら,つくづく電力改革の意味を考えさせられる。