日比谷の街角 弁護士 稲垣隆一 稲垣隆一法律事務所

稲垣隆一法律事務所 〒100-0006 東京都千代田区有楽町一丁目7番1号有楽町電気ビル南館9階956区 電話:03-6273-4351

事件あれこれ

セキュリティベンダー警戒せよ!!!

P2Pネットワークを監視し,クライアントが決めたキーワードが含まれるファイルを取得して保存し,クライアントに見てもらってクライントの要望に従い処理するというサービスを行っているセキュリティベンダーに捜索が入り,サービスに使っているパソコンやサーバーのデータを差し押さえられ,逮捕者も出た。

嫌疑は,刑法第168条の3 不正指令電磁的記録保管罪。

どういう場合にこの罪が成立するかというと,
①正当な理由がない
②他人のコンピューターで実行の用に供する目的

のもとで,

③人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録,そのほかこの不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

を,

④取得又は保管する行為
⑤③及び④の認識

が全て備わった場合だ。

私は,この罪の立法を議論する法制審議会に幹事として出ていた。
当時から,この罪が成立すると,セキュリティベンダーの仕事が著しく萎縮させられるという指摘が強くなされていた。そもそも,実害が出る前に,保管そのものを処罰するには,相当にこの罪を必要とする社会的事実がなければならない。しかしそのような状況は認められない。サイバー犯罪条約との関係でも必要性に疑義があった。
だから当然反対した。

しかし,法務省は,こう説明した。

①,②の要件がある以上,正当なセキュリティベンダーの不正ソフトの取得保管でこの罪は成立しないから,心配ない。

この説明は,肩すかしというより,むしろ「ご心配はごもっとも。正当理由の有無,目的の有無は裁判所が判断することで,存分に争って,何年かけても最高裁で決着すれば,成否はいずれわかります。捜査機関は,その疑いがあれば捜査します。ですから,萎縮効果はやむを得ません。どんな犯罪でも,捜査とはそういうものです。kの罪を議論する上で,こうした当たり前のことは論じるに値しません。」という答えなのだ。

というわけで,この罪の成立はスムースに行かなかった経緯がある。
(詳しくは法制審議会の議事録参照)

法の成立後も,セキュリティベンダーや研究者からは,この罪が活動を萎縮させるので,なんとか,正当な理由や目的を立証する方法を講じてほしいと訴えが上がっていた。

しかし,結局何らの実効的な措置が講じられないまま今日に至ってしまった。

そして,事件は起きた。

セキュリティベンダーの従業員でもこの要件を満たすなら,処罰されて当然だ。
しかし,その判定には,人生がかかっている。会社も事業がかかっている。

勿論捜査機関も慎重な検討をした上のことだろう。

しかし,この事件の捜査や処理は,この罪の萎縮効果や捜査のあり方に対する議論を沸騰させるだろう。

この捜査や処理が適切に行われることは,日本のセキュリティ産業の競争力に拘わっている。
捜査機関には,関係者の利益を適切に保護しつつ,実体を解明する,比例原則を考慮した切れのある適切な捜査を行ってほしい。

また,NISCや経済産業省,総務省には,正当な業務を行うセキュリティ関係者の活動が保証され,我が国セキュリティ産業の競争力がそがれないような環境作りの場を作るべく,益々尽力してほしい。

そうでなければ,日本は,セキュリティ分野でまた遅れをとり,セキュリティを成長産業に位置づけることなど絵に描いた餅になってしまうと危惧するからだ。


簡保の年金はひどい 契約には注意が必要

簡保の年金はひどい。

もしあなたが、既に親を亡くし、身内は兄弟姉妹だけの身の上の場合、簡保の年金を契約しようとするにあたっては、あなたが、将来に備えて、いくら「全財産を妻に相続させる」と遺言をしても、関係者全員から印鑑証明書と実印押捺の書類を貰うか、裁判で勝たなければ、簡保は契約者を妻に変えてくれない。」ということを知っておく必要がある。

仮にあなたが妻を残して死亡したとする。そうすると、年金を継続して受けるには、妻が契約者名義を妻に変更する必要がある。

遺言があるから、相続人は妻だけで、兄弟はもやは相続人ではない。

そこで、妻が簡保に契約者名義の変更を申し出ると、簡保は、全財産を妻に相続させるという遺言があっても、、契約者名義を夫から妻に変更するには、夫の他の相続人全員から実印を押捺した同意書や紛議をおこさないという誓約書や印鑑証明書が必要だと言って譲らないからだ。

「全財産を妻に相続させる」という遺言があるときは、相続人は妻だけだ。そうだとしたら、名義書換に応じないことは、妻の法的な地位を侵害することになる。

法律には、簡保が妻の契約者名義の変更請求に応じないで良いとする明文上の根拠はない。
約款にもない。約款には「契約者が複数あるときは代表者を定めろ」という条項があるだけで、上に書いた場合に、簡保の主張を根拠づける明文上の根拠はない。

法律も約款もないのに、簡保はなぜそんなことを言うのか。

いろいろ理由をあげていたが、一応理解できる主張は

「遺言が無効だと争われた場合に巻き込まれる」というものだ。

しかし、この理由は何らの根拠もないし、不合理だ。

たしかに遺言は無効を争うことはできる。すべて意思表示は無効を争える制度になっている。
しかし、それはそういう制度だというだけで、争うには要件が必要だ。

簡保が、今回の場合に遺言の無効を疑わせる事実を把握してそう言っているわけではない。
要するに抽象的、論理的な可能性を根拠に、現に相続権を有する妻の権利行使を妨害しているのだ。

法律にも契約にもそんな根拠がなにのに、そんな抽象的な可能性を理由に、具体的な権利行使に応じないことができるという。

しかも常識的に考えて、いずれも妻だけで子供がいない、親も亡くなっているという兄弟の弟が自分の全財産を妻に相続させると遺言して亡くなった場合、弟の妻が、兄には何も財産が行かないのに、「簡保に書類を出すから同意書を書いて実印を押して印鑑証明書をとってきてくれ」と頼んだときに、兄は快く応じてくれるというケースを簡保が想定することが正しいのだろうか。

他人だったら「そんな義理はない。」と言うだろう。では兄弟だから当然なのか。
人倫としては美しくてもそれを簡保が求めることが正しいのか。

人倫を持ち出すなら、仮に親が亡くなるまで長男負債が親を見たいて弟夫妻は兄に任せっぱなしであったという最近よくあるケースを想定したらどうだろうか。

兄は遺言の無効までは主張しなくとも、弟の妻からの、実印押捺書類の作成と印鑑証明書の準備、送付の求めに快く応じてくれると考えるのが現実的なのだろうか。

仮に応じないなら、遺言無効を主張する可能性がある。だから弟の妻の請求に応じないということが正義にかなうのだろうか。

簡保がこうしたことを言うことが、年金事業を行う民間企業の在り方として正しいのだろうか。

要するに、起きるか起きないか全く予想すらできないのに、争いに巻き込まれたら困るという理由で、契約の相手方に、利害関係者の同意か裁判をしてくれなければ、元契約者が全財産を相続させるという遺言で示した意思には応じないというのが、簡保の年金なのだ。

簡保は何の負担も負わないで請求に応じないとふんぞり返っている。

全員の同意を取りに行くか、裁判か、どちらにしても、負担を受けるのは契約者を亡くして悲しんでいる妻だ。

その妻が、自ら弁護士のところに出向いて、法律相談量を支払って法律相談をし、なんどかの相談の上で、また弁護士の所に出向いて、着手金をを払って訴訟をし、勝ったらまた弁護士のところに出向いてに成功報酬を支払ってやっと簡保に名義変更をしてもられる。お金だけでなく時間も大変な負担だ。

簡保は、法律にも約款にも根拠がないのに、こんな不利益を契約者に強いて恥じない。

おそらく、請求をあきらめる遺族もいるに違いない。

契約に際しては、こうした状況にあることを、告知する義務があるだろう。なにしろ、約款にはその旨の記載がないのだから。

簡保の年金の契約にあたっては、「いくら遺言で全財産を妻に相続させると遺言しても、関係者全員から同意をとるか裁判で勝たなければ、簡保は契約者を妻に変えてくれない。」ということを知っておく必要がある。

遺留分訴訟と法曹の良心

遺留分請求訴訟は難しい。
特に不動産だけが遺産であるときには。

なにが難しいかというと,進行だ。

こうした事件は,和解ができなければ,認められる遺留分の限度で,不動産に共有登記をする判決を書けばそれで一件落着。簡単だ。

しかし,それでは,問題は解決しないことが目に見えている。
共有登記をすれば,争った当事者が,永遠にその不動産を共有することになり,権利関係を整理しようとすれば,共有物分割訴訟に進み,競売して,他方の共有者が安値で買い取りをすることになる。

これでは,遺留分請求訴訟を起こした原告の利益は,実質的には守れない。
また,被告も,長い間,共有の負担を追い続けることになる。
特に,遺留分事件の当事者は,親族だから,裁判までして争う以上,その感情的な対立は激しい。

裁判官は考える。判決で一件落着では問題は解決しない。感情的対立を残すことになる。
当事者の弁護士も,同じことを考える。
そこで,和解により当事者の関係を整理すべきだ,そのために努力しようというのが,良心的な裁判官,法曹の考えだ。

こういう良心的な法曹もいるのだ。


一回結審

賃貸している建物の明け渡し請求訴訟の第1回。
こちらは原告である家主の代理人弁護士。相手は被告のテナントの代理人弁護士。
たった一回の期日で結審。判決期日が決まった。こちらの勝利だ。

「賃料を払わないので出ていってくれ」と言うのがこちらの主張。
しかし相手は,「使ってはいるが,賃料を払う理由はない」というのだ。
その根拠はこうだ。
家主が,更新後は,風営法を守ってくれとか,変な人に貸さないと合意してくれという。こんなことを合意すれば店はやっていけないから,そんな合意はしない。でも,こういう合意を求められては営業できない。だから,賃料を払う必要はない。というのだ。

これにはビックリ。相手方は答弁書でこんな主張をしていたので,私は,答弁書が出てすぐに,「被告は,原告が求める合意をしたら建物を利用できないと言いながら,合意はしていないことを認めているのだから,何ら,賃料不払いを正当化する理由はない。当方の主張を認めて自白しているのだから,すぐに結審してほしい」と粘った。

裁判所も驚いたらしい。

裁判官「占有しているんですか」
相手方弁護士「はい」
裁判官「じゃどうして賃料支払わないんですか」
相手方弁護士「家主が変な合意を求めるので」
私「でも,家主の求める合意には応じていないんでしょう」
相手方弁護士「はい」
裁判官「賃料を支払わないでもよい理由はないことはわかっていますね」
相手方弁護士「ええ。」
私「被告は請求原因を認める主張をしていうのだから,すぐに結審してください」

裁判官が見かねて救い船を出した「被告本人の言い分をそのまま答弁したんですね」
相手方弁護士「はい」

たしかに,弁護士は,市井の人の言い分を裁判所に上げるのが仕事だ。
弁護士がそれを怠っていたら,正義は守れない。新しい人権も生まれなかった。
今は当然の,日照権も,環境権も,そう,労働三権も,敗訴を続ける戦いの中から生まれてきた。

でも,それと,無謀な主張をすることは違う。

家主の求める合意をしたら営業できない。だから合意しない。でも使えないから,賃料を支払わなくていいのだという主張は,それ自体矛盾していて,失当だ。

こういう依頼者には,「あなたの言い分は通らない」と教えるのも弁護士の仕事だ。
それを,費用をとって裁判で争うというのは,依頼者に対する背信だ。

相手方弁護士がつぶやいた「和解で解決できませんか」
理由もないのに,争って,和解に持ち込もうなどという魂胆には,私は絶対応じない。
時間稼ぎや,和解をするために,裁判所を使おうなどということが許されたら,裁判所を使って家主の権利を制限することになる。

こんなことを弁護士がしていたら,弁護士の信用は地に堕ちる。

相手方弁護士が,こちらの主張に反論したいと主張したが,裁判所は,一蹴して,結審した。











情報漏洩の疑いを解く コンプライアンス経営の肝 ISMSの文書化の意味

ある会社から,「自社から情報漏えいしたと疑いをかけられている。自社からの漏洩の有無を調べて欲しい」と求められて調査している。

なぜ弁護士が必要なのか。
それはこうだ。

仮に漏洩があったとすれば,法的責任を問われる可能性がある。また,漏洩した社員の懲戒問題に発展する。
漏洩がなかったとすれば,疑いを掛けた相手にそれなりの対抗をしなければならない。
いずれにせよ,法的責任がかかっている。
そこで,調査の設計と実施には,法的な争いに絶えられる証拠の粒度を知る弁護士が必要となるというわけだ。

今回の調査設計は,その情報の入手以降,情報漏えいの可能性のあるルートをしらみつぶしに洗い出して,その一つひとつを点検して,そのルートからの漏洩の事実,リスクを点検・評価するというものだ。

当然弁護士一人でできるわけもない。
管理,システム,調達,資産管理の各部門から人を出してもらって調査チームを構築して調査方法を設計し,役割分担して調査を実施する。

作業の中核は,証拠の収集だ。

つくづく,コンプライアンス経営は,証拠にもとづく経営だと痛感する。
コンプライアンス経営が問われるのは,コンプライアンス経営が争われたときだ。
争いに対抗するには,証拠が勝負だ。
だからコンプライアンス経営の肝は証拠の確保なのだ。

ISMSの文書化と記録が,情報管理のコンプライアンス経営に役立つ理由はここにある。











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